球磨型、長良型、川内型の特徴
日本海軍が最初に持った軽巡は天龍型(天龍、龍田)だったが、船形が小さく実験船的要素が強かったのと、駆逐艦が大型化して速力が増してきたため、水雷戦隊旗艦としての軽巡も速力増加の要求が出され、開発されたのが球磨型、長良型、川内型の3タイプである。この3タイプは5,500トン型と呼ばれるが、これは最初に建造された球磨型の常備排水量が5,500トンだったことに由来する。
開発当時声高に叫ばれていた八八艦隊の護衛に多数の水雷戦隊(駆逐艦部隊)を必要としていた日本海軍は、水雷戦隊の旗艦である軽巡に司令部施設、強力な通信能力、駆逐艦に劣らぬ高速力、長大な航続力、敵駆逐艦を撃破できる砲力と魚雷攻撃力、偵察の要である水上偵察機の搭載、水雷戦隊に対する補給能力などを求めた。

その要求に応じて第一陣として球磨型が大正9年8月に竣工した球磨を皮切りに、翌10年10月までに多摩、北上、大井、木曾が次々と完成した。船型は天龍型を踏襲したもので、船首はスプーン型のカッター・バウになっていて、当時としては強力な9万馬力の機関を備えていた。また、竣工当時、水偵を搭載していたが滑走台が無く(もちろんカタパルトも)デリックで上げ下ろしをしていた。

球磨型の改良型である長良型は長良、五十鈴、名取、由良、鬼怒、阿武隈の6隻が建造された。球磨型と異なる仕様は、魚雷兵装が53cmから61cmへスケールアップされ、艦橋を大きくして格納庫を設け、そこから艦首に向かって滑走台を取り付けた点である。この滑走台は発艦するときは風上に向かって全速力で航走すれば十分使用できたが、問題は格納庫への収納にあった。艦の側に着水した偵察機をデリックでつり上げて格納庫へ収納する作業は大変手間が掛かり、後の改装の際、カタパルトの設置により使用しなくなった。しかし、艦橋の格納庫は広さを利して水雷戦隊の司令部設備を設けるのに役だったということである。
艦形は球磨型とよく似ているが、格納庫を設けた分艦橋は大型化している。また、艦首は球磨型と同じくスプーンタイプであるが、阿武隈は夜間訓練の際、北上と衝突事故を起こして艦首が切断されたために、修理して艦首をクリッパー型に換えている。

5,500型軽巡の最後は川内型の川内、那珂、神通である。この型は煙突が4本になっているので、球磨型や長良型と区別しやすい。艦首の形は那珂と神通はクリッパー型となっており、那珂においては建造中に関東大震災が起こり工事が中断したが、工事再開のときに艦首が取り替えられ、神通においては夜間訓練中に駆逐艦の蕨と衝突して艦首を破損したため修理の際に取り替えたものである。この衝突で蕨は船体がまっぷたつにおれて沈没したので、多くの犠牲者を出した。神通の艦長には何の責任もなく、処分もされなかったが、責任を感じた艦長の水城圭次大佐が自決する悲劇が起こった。鳥取県の美保ヶ関沖での演習中に発生したので美保ヶ関事件と呼ばれている。
球磨型、長良型、川内型の改装
5,500トン型は天龍型に比べて船体に余裕があったため、近代化改装がしばしば行われている。ここでは、大きく変貌した球磨型の北上、大井と長良型の五十鈴を紹介する。
北上、大井の大改装
球磨型の北上と大井は、軽巡本来の任務を解かれ、重雷装艦となった。竣工時は53cm連装4基8門であったが、主砲3門を撤去して片舷に61cm4連装発射管を5基、両舷で40門の魚雷発射管をズラリと並べた(予備魚雷は搭載していない)。艦隊決戦を想定した改装仕様であったが、軍上層部が思い描いていた海戦はついに起こらなかった。
その後、北上は雷装をすべて撤去して、人間魚雷回天の母艦に改装されたが、回天を使用する機会がなく、そのまま終戦を迎えた。
五十鈴の大改装
昭和18年12月に、燃料補給のためマーシャル諸島のクェゼリンに入泊していたとき、空襲を受けて舵取り器のシャフトが折れる損傷を受けた。トラックで応急修理を受けた後、横須賀で防空巡洋艦への改装を行った。主砲は全て撤去され、代わりに12.7cm連装高角砲3基が装備された。その他にも、25mm3連装機銃を13基39門、25mm単装機銃5門も装備され、日本海軍初の防空巡洋艦が誕生した。
球磨型のスペック
諸元 | 球磨 | 多摩 | 北上 | 大井 | 木曾 | |||
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竣工時 | 竣工時 | 竣工時 | 回天搭載艦 | 竣工時 | 重雷装艦 | 竣工時 | ||
基準排水量 英トン | 5,100 | 5,100 | 5,100 | 5,100 | 5,100 | |||
常備排水量 メートルトン | 5,500 | 5,500 | 5,500 | 7,041 | 5,500 | 6,900 | 5,500 | |
全長m | 158.13 | 158.13 | 158.13 | 158.13 | 158.13 | |||
最大幅m | 14.17 | 14.17 | 14.17 | 14.17 | 14.17 | |||
馬力 | 90,000 | 90,000 | 90,000 | 35,110 | 90,000 | 90,000 | ||
速力kn | 36.0 | 36.0 | 36.0 | 23 | 36.0 | 33.6 | 36.0 | |
備砲 | 主砲 | 14×7 | 14×7 | 14×7 | 14×7 | 14×4 | 14×7 | |
高角砲 | 7.6×2 | 7.6×2 | 7.6×2 | 12.7×4 | 7.6×2 | 7.6×2 | ||
発射管 | 8 | 8 | 8 | 回天二型×8 | 8 | 40 | 8 | |
航空機 カタパルト | 水偵×1 | 水偵×1 | 水偵×1 | 水偵×1 | 水偵×1 | |||
沈没 | 19.1.11 マニラ湾 航空機 | 19.10.25 エンガノ岬沖 潜水艦 | 21.11.30 三菱重工長崎 解体、除籍 | 19.7.19 マニラ沖 潜水艦 | 19.11.13 マニラ湾 航空機 |
長良型のスペック
諸元 | 長良 | 五十鈴 | 名取 | 由良 | 鬼怒 | 阿武隈 | ||
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竣工時 | 竣工時 | 最終 大改装 | 竣工時 | 竣工時 | 竣工時 | 竣工時 | ||
基準排水量 英トン | 5,100 | 5,100 | 5,100 | 5,100 | 5,100 | 5,100 | ||
公試排水量 メートルトン | 5,570 | 5,570 | 5,570 | 5,570 | 5,570 | 5,570 | ||
全長m | 158.13 | 158.13 | 158.13 | 158.13 | 158.13 | 158.13 | ||
最大幅m | 14.17 | 14.17 | 14.17 | 14.17 | 14.17 | 14.17 | ||
馬力 | 90,000 | 90,000 | 90,000 | 90,000 | 90,000 | 90,000 | ||
速力kn | 36.0 | 36.0 | 36.0 | 36.0 | 36.0 | 36.0 | ||
備砲 | 主砲 | 14×7 | 14×7 | - | 14×7 | 14×7 | 14×7 | 14×7 |
高角砲 | 7.6×2 | 7.6×2 | 12.7×6 | 7.6×2 | 7.6×2 | 7.6×2 | 7.6×2 | |
発射管 | 8 | 8 | 8 | 8 | 8 | 8 | ||
航空機 カタパルト | 艦偵×1 滑走台×1 | 艦偵×1 滑走台×1 | - | 艦偵×1 滑走台×1 | 艦偵×1 滑走台×1 | 艦偵×1 滑走台×1 | 艦偵×1 滑走台×1 | |
沈没 | 19.8.7 天草諸島西方 潜水艦 | 20.4.7 スンバワ島沖 潜水艦 | 19.8.18 サマール島東方 潜水艦 | 17.10.25 サンタイサベル島付近 航空機 | 19.10.26 パナイ島付近 航空機 | 19.10.26 ネグロス島沖 航空機 |
川内型のスペック
諸元 | 那珂 | 川内 | 神通 | ||||
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竣工時 | 最終 大改装 | 竣工時 | 最終 大改装 | 竣工時 | 最終 大改装 | ||
基準排水量 英トン | 5,195 | 5,195 | 5,195 | ||||
常備排水量 メートルトン | 5,595 | 7,355 | 5,595 | 7,355 | 5,595 | 7,355 | |
全長m | 158.3 | 158.3 | 158.3 | 158.3 | 158.3 | 158.3 | |
最大幅m | 14.17 | 14.17 | 14.17 | 14.17 | 14.17 | 14.17 | |
馬力 | 90,000 | 90,000 | 90,000 | 90,000 | 90,000 | 90,000 | |
速力kn | 35.25 | 33.3 | 35.25 | 33.3 | 35.25 | 33.3 | |
備砲 | 主砲 | 14×7 | 14×6 | 14×7 | 14×7 | 14×7 | 14×7 |
高角砲 | 7.6×2 | 12.7×2 | 7.6×2 | - | 7.6×2 | - | |
発射管 | 8 | 8 | 8 | 8 | 8 | 8 | |
航空機 カタパルト | 艦偵×1 滑走台×1 | 水偵×1 カタパルト×1 | 艦偵×1 滑走台×1 | 水偵×1 カタパルト×1 | 艦偵×1 滑走台×1 | 水偵×1 カタパルト×1 | |
沈没 | 19.2.17 トラック島西方 潜水艦 | 18.11.2 ブーゲンビル島沖 海戦 | 18.7.13 コロンバンガラ島沖 海戦 |