古鷹型の特徴

日本海軍が大正9年(1920年)から14年(1925年)にかけて建造した14隻の5,500トン型軽巡が、1923年から25年にかけてアメリカで建造されたオマハ型軽巡に太刀打ちできないことが判明し、オマハ型軽巡に対抗しうる新しい大型軽巡を建造する必要に迫られた。ここに古鷹型軽巡を建造することとなり、世界の注目を浴びる巡洋艦となるのである。
古鷹型の最大特徴は主砲にあった。当時、世界の巡洋艦は6インチ(15.24cm)砲を装備していたが、古鷹型は20cm(7.9インチ)砲を単装で6門搭載した。自艦の主砲に合わせて装甲、防御を設計するので、当然自艦より大きな砲を装備している敵艦とは交戦しない。戦う前から負けると分かっている戦闘はしないのだ。しかも、この20cm砲6門搭載の基準排水量が日本海軍の発表だと7,100トンであるという。各国の海軍関係者の驚きは大変なものだった。20cm砲6門搭載となると基準排水量は当時の常識から考えれば9,000トンを超える船体となるはずだった。
この軽量化を達成した秘密は艦幅と全長の比率にあり、列国の巡洋艦に比べて細長い船体を採用した。アメリカ海軍のオマハ型は全長169.4m、全幅16.9mで幅に対する長さの比は10.02、イギリス海軍のリアンダー型は全長166.47m、全幅16.8m、幅に対する長さの比は9.91であったのに対して、古鷹型は全長185.166m、全幅16.55m、幅に対する長さの比は11.19と突出して大きい比率である。艦幅は米英艦とさほど変わらないが全長が両艦より約6mも長く作られている。これだけを見るとオマハ型7,050トン、リアンダー型7,270トンを大幅に超える排水量となってもおかしくないが、7,950トンに抑えられている。細長く建造すると水の抵抗が減り、同じ機関出力でも速く航走できるため、逆に少し小さめの機関を設置することができる。また、燃料も少なくて済むことも排水量を抑えることとなる。しかし、船体が長くなれば強度を保つための資材を多く使用しなければならなくなり、重量増加に繋がる。この相反するファクターを見事解決したのが鬼才平賀譲造船大佐(当時)である。彼は上甲板をフラッシュデッキとすることで船体の縦通材を簡素化して重量を抑え、そのうえ上甲板をうねらせることにより縦方向の重量配分を適正化することに成功し、凌波性を向上させている。この上甲板のうねりは以後の妙高型、高雄型のみならず戦艦大和型にも受け継がれている。
古鷹型の改装
古鷹型の大改装における主眼は攻撃力だけでなく防御力も兼ね備えた名実共に重巡洋艦となることであった。古鷹と加古は竣工時、主砲は単装を装備していたが遅れて建造された青葉、衣笠と同様に連装砲塔3基に改められる。
大改装の概要
- 主砲の換装
- 7.9インチ(20.06cm)だった主砲を8インチ(20.3cm)に換装した。
- 主砲方位盤および測距儀
- 新式の主砲方位盤が艦橋トップに置かれその下に6m測距儀が装備された。
- 高角砲
- 45口径十年式単装高角砲が艦橋後部と後部煙突の両舷に4基装備された。
- 機銃
- 25mm連装機銃4基が後部煙突を取り囲むように装備された。
- 魚雷発射管
- 従来の固定発射管を改め、甲板上の後部方位盤とカタパルトの間の両舷に旋回式61cm4連装発射管を2基装備した。予備魚雷8本を格納した次発装填装置も併せて装備した。
- 新式カタパルト
- 呉式二号三型に換装した。航空機は九四式水偵2機を搭載。
- 機関強化
- 石炭・重油の混焼罐を廃止し、新式のロ号専焼罐に換装。機関出力は102,000馬力から103,340馬力になる。
- バルジの装着
- 大改装による重量増加で復元性が低下したため、魚雷防御も兼ねて大型のバルジを装着した。
- 外観
- 近代化による施設増加で艦橋構造物が大きくかつ複雑な形になった。
古鷹型のスペック
諸元 | 古鷹 | 加古 | 青葉 | 衣笠 | |||||
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竣工時 | 最終 大改装 | 竣工時 | 最終 大改装 | 竣工時 | 最終 大改装 | 竣工時 | 最終 大改装 | ||
基準排水量 英トン | 7,100 | 8,700 | 7,100 | 8,700 | 7,100 | 8,700 | 7,100 | 8,700 | |
公試排水量 メートルトン | 8,585 | 10,507 | 8,585 | 10,507 | 8,900 | 10,822 | 8,900 | 10,822 | |
全長m | 185.166 | 185.166 | 185.166 | 185.166 | 185.166 | 185.166 | 185.166 | 185.166 | |
最大幅m | 15.77 | 16.926 | 15.77 | 16.926 | 15.83 | 17.56 | 15.83 | 17.56 | |
馬力 | 102,000 | 103,390 | 102,000 | 103,390 | 102,000 | 104,200 | 102,000 | 104,200 | |
速力kn | 34.5 | 32.95 | 34.5 | 32.95 | 34.5 | 33.43 | 34.5 | 33.43 | |
備砲 | 主砲 | 20×6 | 20.3×6 | 20×6 | 20.3×6 | 20×6 | 20.3×6 | 20×6 | 20.3×6 |
高角砲 | 7.6×4 | 12.7×4 | 7.6×4 | 12.7×4 | 12.7×4 | 12.7×4 | 12.7×4 | 12.7×4 | |
発射管 | 12 | 8 | 12 | 8 | 12 | 8 | 12 | 8 | |
航空機 カタパルト | 水偵×1 滑走台×1 | 水偵×2 カタパルト×1 | 水偵×1 滑走台×1 | 水偵×2 カタパルト×1 | 水偵×1 カタパルト×1 | 水偵×2 カタパルト×1 | 水偵×1 カタパルト×1 | 水偵×2 カタパルト×1 | |
沈没 | S17.10.12 サボ島沖 海戦 | S17.8.10 ニューアイルランド島沖 潜水艦 | S20.7.24 呉(着底) 航空機 | S17.11.13 ガダルカナル島沖 航空機 |