水中高速艦の特徴
水中での機動性を高めることは、潜水艦にとって生存確率が高くなることを意味する。敵駆逐艦などのソナーに捕らえられたときでも高速性を発揮して離脱できるように、との思いで水中高速艦の研究・開発が進められた。
水中高速艦の研究は甲標的をもとに始められ、その実験艦(仮称71号艦)は昭和13年8月に完成した。計画では、水中速力25kn、水上速力18knであったが、当初予定していた主機の航空機用ダイムラー・ベンツ社製ディーゼル・エンジンの輸入ができず、出力の劣る国産エンジンの搭載や減速機の不具合などによって公試運転では水中速力21.3kn、水上速力13knにとどまった。しかしながら、当時の世界トップクラスであるイギリスR級潜水艦の14knに比べると格段に速かった。各種の試験は継続して行われたが実用艦とはならず軍籍にも入らなかったため、艦名はない。
潜水艦の被害が増大していた大戦末期に登場したのが、潜高、潜高小と呼ばれる水中高速艦である。水中高速実験艦(仮称71号艦)で得られた貴重な結果をもとに、水中における抵抗を極力抑えるような設計がなされ、船体外側の艤装などは起倒式や簡素化したり整流覆いを設置したりした。また、リベットの突起をも嫌って全溶接となった。潜高と呼ばれた伊201型は水中速力アップのために特E型電動機(出力1,250馬力)を直列に2基並べて2軸推進とし、潜高小と呼ばれた波201型は特E型電動機1基で1軸推進とした。
水中速力の生命線である蓄電池は、甲標的と同じ特D型が2,088個搭載されたが、耐久性や寿命の問題、また整備に非常に手間がかかったと言われ、伊202では電池火災を起こしている。また主機の出力が電動機や蓄電池の容量に比べて小さく、補助発電機も搭載していないため充電能力は不足していたとされる。
水中高速艦の同型艦
艦型 | 代表艦 | 同型艦 |
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仮称71号 | 実験艦につき同型艦なし | |
潜高 | 伊201 | 伊202、203(他未成艦5隻あり) |
潜高小 | 波201 | 波202~205、207~210、216(他未成艦32隻あり) |
水中高速艦のスペック
諸元 | 仮称71号 | 潜高(伊201) | 潜高小(波201) | |
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水上排水量(t) | 基準 | 195 | 1,070 | 320 |
常備 | 213 | 1,291 | 376 | |
水中排水量(t) | 240 | 1,450 | 440 | |
全長(m) | 42.80 | 79.00 | 53.00 | |
最大幅(m) | 3.30 | 5.80 | 4.00 | |
出力(馬力) | 水上 | 300 | 2,750 | 400 |
水中 | 1,800 | 5,000 | 1,250 | |
速力(kn) | 水上 | 13.0 | 15.8 | 11.8 |
水中 | 21.0 | 19.0 | 13.9 | |
航続距離(kn-海浬) | 水上 | 12-2,200 | 14-5,800 | 10-3,000 |
水中 | 7-33 | 3-135 | 2-100 | |
安全深度(m) | 80 | 110 | 100 | |
備砲 | - | 25mm単×2 | 7.7mm単×1 | |
発射管 | 首3 | 首4 | 首2 | |
その他兵装 |