妙高型の特徴
古鷹型は当初軽巡として建造されたが、妙高型は条約型重巡洋艦として基準排水量1万トンいっぱいの大きさで設計された。設計主務者は古鷹型に引き続いて平賀造船官が担当し、またまた世界をアッと言わせた巡洋艦を設計した。
最初の軍令部案では20cm砲8門、61センチ魚雷8門で速力35.5ノットの要求であったが、平賀造船官は今後の巡洋艦は砲力を増大させたほうが良いとの考えから、魚雷発射管を廃して20cm主砲を10門にする案を逆提案した。軍令部は一旦は平賀案を受け入れ魚雷装備を見送ったが、やはり雷撃戦法の未練は棄てがたく、平賀造船官が欧州視察で不在を狙って魚雷発射管を装備するように設計し直し、起工してしまった。これは平賀造船官が頑固で自説を曲げないことからの処置であったと思われる。
妙高型では古鷹型でできなかった魚雷に対する水中防御を設計段階から取り入れた。船体の外板を防御甲鈑として軽量化を図ったのは古鷹型で実証済だが、妙高型は一番外側の外板から内側の防御縦隔壁まで約2.5mしかなかったので、バルジ内部の最内側に水防鋼管を約200トン詰め込む計画を立てた。水防鋼管とは、両端を密封した鋼鉄製のパイプで、魚雷の爆発エネルギーを吸収させるものである。しかし、竣工時はこれを装備すると基準排水量10,000トンを超えてしまうため、戦時に搭載することとした。
妙高型の外観上の大きな特徴である煙突は、重点防御という考えから誘導煙路を取り入れている。通常、罐室の直上に煙突を設けることから、艦橋構造物の直下には罐室を設けないが、バイタルパートの重点防御を徹底した妙高型では、できるだけ防御区間を短くするための措置として、艦橋下に第一、第二罐室を設置した。必然的に煙突は上にある艦橋を避ける形となり後方へやや傾斜した二番煙突(第三、第四罐室の煙突)に添わせるように湾曲して取り付けられた。日本海軍が誇る艦形美は防御区間を短くするために主要構造物が中央に寄ったことにより引き締まったシルエットとなり、さらに集合煙突が後方へ傾斜しているところからスピード感あふれる独特のものとなっている。イギリス空軍が誇るスピットファイアー戦闘機は流麗なスタイルで優秀な性能を示した飛行機であると誰もが認めるところだが、かの戦闘機を設計したミッチェル技師の「流麗なスタイルには優秀な性能が宿る」という言葉は言い得て妙である。
昭和3年3月に竣工した那智を始め、昭和4年4月に羽黒、同年7月に妙高、同年8月に足柄が相次いで完成した。妙高型を建造している途中に既に次のタイプである高雄型の設計が始まっていた。列強、特にアメリカは優秀な巡洋艦である妙高型の出現とさらに優秀であろう高雄型に脅威を感じ、先のワシントン条約に引き続き補助艦艇を制限するロンドン条約を開催する提案を各国に働きかけた。つまり、日本海軍が送り出す優秀な巡洋艦群が軍縮会議を引き起こしたと言っても過言ではない。それだけインパクトのある巡洋艦だったわけである。
妙高型の改装
近代化の改装を昭和8年から順次行い、昭和12年まで続けられたのが第一次改装で、さらなる個艦優秀を狙った改装は無条約時代に突入した昭和14年から16年にかけて行われた(第二次改装)。
第一次大改装の概要
- 主砲の換装
- 7.9インチ(20.06cm)だった主砲を内筒をボーリングして8インチ(20.3cm)にした。
- 九八式発射遅延装置の装備
- 主砲斉射時、砲弾同士が干渉して散布界(着弾面積)が広がるのを防ぐため、連装砲のいずれかの砲が0.03秒遅れて発射する装置を装備した。
- 高角砲
- 単装6基だったのを12.7cm連装4基に換装した。
- 機銃
- 従来の7.7mm機銃に加え、13mm4連装機銃を2基増設した。
- 魚雷発射管
- 従来の固定発射管を改め、新たに設置したシェルター甲板の後方下部に開口部を設け、旋回式61cm4連装発射管を2基装備した。
- 新式カタパルト
- 呉式二号三型に換装した。航空機は九四式水偵1機と九五式水偵2機あるいは九五式水偵4機を搭載。
第二次大改装の概要
- 防御
- 第一次改装時に装着した小型バルジを撤去し大型バルジを装着。バルジ内部に水密パイプを充填した。
- 魚雷発射管
- 旋回式61cm4連装発射管をさらに2基増設して合計16門とした。(予備魚雷は8本)
- 機銃
- 艦橋横の7.7mm機銃を撤去して13mm連装機銃に換装。第一次改装時に装備した13mm4連装機銃に換えて25mm連装機銃を装備した。
- 新式カタパルト
- 呉式二号五型に換装して4トンまでの飛行機を射出できるようになった。航空機は零式観測機2機と零式水偵1機を搭載。
- 機関
- 罐全体に圧力をかけて燃焼効率を高めた。これにより重油の搭載量が2,500トンから2,214トンになる。
妙高型のスペック
諸元 | 妙高 | 那智 | 足柄 | 羽黒 | |||||
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竣工時 | 最終 大改装 | 竣工時 | 最終 大改装 | 竣工時 | 最終 大改装 | 竣工時 | 最終 大改装 | ||
基準排水量 英トン | 10,000 | 13,000 | 10,000 | 13,000 | 10,000 | 13,000 | 10,000 | 13,000 | |
公試排水量 メートルトン | 12,374 | 14,743 | 12,374 | 14,984 | 12,374 | 14,984 | 12,370 | 15,159 | |
全長m | 201.5 | 203.76 | 201.5 | 203.76 | 201.5 | 203.76 | 201.5 | 203.76 | |
最大幅m | 19 | 20.73 | 19 | 20.73 | 19 | 20.73 | 19 | 20.73 | |
馬力 | 130,000 | 132,830 | 130,000 | 132,830 | 130,000 | 132,830 | 130,000 | 132,830 | |
速力kn | 35.5 | 33.88 | 35.5 | 33.88 | 35.5 | 33.88 | 35.5 | 33.88 | |
備砲 | 主砲 | 20×10 | 20.3×10 | 20×10 | 20.3×10 | 20×10 | 20.3×10 | 20×10 | 20.3×10 |
高角砲 | 12×8 | 12.7×8 | 12×8 | 12.7×8 | 12×8 | 12.7×8 | 12×8 | 12.7×8 | |
発射管 | 12 | 16 | 12 | 16 | 12 | 16 | 12 | 16 | |
航空機 カタパルト | 水偵×2 カタパルト×1 | 水偵×3 カタパルト×2 | 水偵×2 カタパルト×1 | 水偵×3 カタパルト×2 | 水偵×2 カタパルト×1 | 水偵×3 カタパルト×2 | 水偵×2 カタパルト×1 | 水偵×3 カタパルト×2 | |
沈没 | 21.7.8 マラッカ海峡 海没処分 | 19.11.5 マニラ湾 航空機 | 20.6.4 スマトラ島バンカ海峡 潜水艦 | 20.5.16 ペナン沖 海戦 |