長門型の特徴

ジュットランド沖海戦で得た教訓は、それまでの超弩級戦艦では速力が遅すぎ、超弩級巡洋戦艦では防御力が弱すぎたということである。各国海軍は建造着手、または準備中の設計を変更して超弩級戦艦を凌ぐ超・超弩級戦艦を建造することとなる。日本海軍では長門、陸奥、アメリカのメリーランド型、イギリスではネルソン型が超・超弩級戦艦に該当し、ポスト・ジュットランド型と呼ばれた。
長門型の特徴はなんと言っても主砲に代表される攻撃力と徹底した集中防御方式である。各項目の特徴は次の通りである。
- 攻撃力
- 主砲は40.64cm(16インチ)砲を採用し連装砲塔にして4基装備した。副砲は14cm単装砲を20門、さらに8cm高角砲4門と53cm魚雷発射管を水上4門、水中4門備えた。
- 防御力
- バイタルパートを集中防御する方式を取り入れ、二重の防御隔壁と水防区画の細分化を図った。また、前楼はこれまでの3本マストをやめ、中心に1本太い(直径1.8m)柱を立て、周りを6本の柱で囲んだ形の檣楼を採用した。これは檣楼への直撃弾を受けて半分破壊されても倒れないようにしたためである。
- 最新光学兵装の装備
- 独特の巨大な檣楼の最上部には、最新鋭の10m測距儀が装備され、大遠距離砲戦に備えた。
竣工時に公表された速力は23knであったが、実際は26.7knの高速を出せるようになっていて、このことは軍機密とされた。しかし、この秘密がひょんなことから暴露された。大正12年(1923年)9月1日、聯合艦隊は大連沖で演習中だったが、東京、横浜が大地震(関東大震災)で全滅したらしいという緊急電が入り、全艦訓練を中止、全速力で東京へ向かった。ところが、九州南端を回ったところでイギリス東洋艦隊旗艦の巡洋艦プリマスがピタリと跡を付けていることに気付いた。一刻を争うときだったので軍機にかまわず全速力で東京をめざしたために、長門の最大速力はイギリスにばれてしまった。
長門に続いて陸奥が建造されたが、艤装工事をしているときにワシントン軍縮会議が始まり、建造途中の未成艦は廃艦と決まった。本来であれば陸奥は未成艦だったので廃棄処分の対象艦のところ、日本海軍は陸奥が完成していることを強く主張したため、そのかわりアメリカの未成艦コロラドとウエストヴァージニアの完成およびイギリスの新戦艦ネルソン型2隻の新造を認めざるを得なくなった。こうして建造された日本海軍2隻、アメリカ3隻、イギリス2隻の合計7隻はビッグセブンと呼ばれた。
長門型の改装
改扶桑型として扶桑型の弱点を補う再設計のもと建造されたはずだったが、さらなる防御の徹底や速力の増加、発展著しい航空機に対する兵装強化が臨まれるようになった。
第1期改装
第1期の改装は大正10年(1921年)から昭和8年(1933年)に行われたが、小規模な手直しにとどまっている。
第1煙突の排煙が前檣の影響で逆流して前方へ流れてしまうため、これを防ぐためのフードが付けられたが不完全なので、後方へS字状に大きく湾曲させ排煙口を第2煙突付近まで下げることとした。
大正15年(1926年)に8cm高角砲を3門追加装備したが、昭和7年(1932年)にこれを12.7cm連装高角砲4基に換装している。
長門型の艦首はカッター・バウで艦首上部が平らなため凌波性に欠けたため、やや鋭い形のクリッパー型にした。
第2期大改装
本格的な大改装は日本が軍縮会議を脱退した後なので何も規制のない状態で思う存分実行できた。
- 主砲、副砲の強化
- 30度の仰角を43度へと引き上げた。これにより、3万7千mの射程が得られた。副砲も仰角を35度に引き上げ、両舷1門ずつ撤去した代わりに、従来装備していた40mm機銃を25mm連装機銃10基に換装した。
- 主砲塔の防御強化
- 砲塔基部の砲座に12.5~21.5cmの甲鈑を付加して強化した。
- 射撃指揮装置の強化
- それまでの一三式方位盤照準装置は方位盤と観測鏡が分散していて不便だったため、最新式の九四式方位盤照準装置に換装した。射撃盤はジャイロコンパスが組み込まれた愛知時計開発の九二式射撃盤が採用された。
- 応急注排水装置の設置
- 魚雷の命中によって浸水した箇所から排水したり、艦の転覆を防ぐために浸水した箇所の反対舷に注水したりする装置が取り付けられ、不沈性が高まった。
- 出力の増加
- 様々な箇所の防御力アップやバルジの設置などで竣工時より排水量は約1万トンも増加した。そのため機関部を重油専焼罐10基に換装して2千馬力アップした。
- 煙突の1本化
- 機関部の換装に伴い、2本煙突を1本にまとめられた。
- 艦尾の延長
- 排水量の増大やバルジの設置によって艦幅が増加したので、艦尾を9.14m延長した。
- ヴァイタルパートの防御強化
- 弾火薬庫の上部、中甲板には12.7cmの甲鈑を張り、機関室、罐室の上部には7.6cm厚の甲鈑を追加した。
- 航空兵装の強化
- 後檣の直後にカタパルト1基が設置され、水偵3機が搭載された。
長門型のスペック
諸元 | 長門 | 陸奥 | |||
---|---|---|---|---|---|
竣工時 | 最終大改装 | 竣工時 | 最終大改装 | ||
基準排水量 英トン | 32,720 | 39,130 | 32,720 | 39,050 | |
公試排水量 メートルトン | 33,800 | 43,580 | 34,116 | 43,439 | |
全長m | 215.80 | 224.94 | 215.80 | 224.94 | |
最大幅m | 28.96 | 34.60 | 28.96 | 34.60 | |
馬力 | 80,000 | 82,000 | 80,000 | 82,000 | |
速力kn | 26.5 | 25.0 | 26.7 | 25.0 | |
備砲 | 主砲 | 40×8 | |||
副砲 | 14×20 | 14×18 | 14×20 | 14×18 | |
高角砲 | 8×4 | 12.7×8 | 8×4 | 12.7×8 | |
発射管 | 8 | 0 | 8 | 0 | |
航空機 カタパルト | 0 | 水偵×3 カタパルト×1 | 0 | 水偵×3 カタパルト×1 | |
沈没 | S21.7.29 ビキニ環礁 原爆実験 | S18.6.8 広島湾 事故 |