金剛型の特徴

明治44年(1911年)1月17日、イギリスヴィッカース社のバーロー造船所で金剛は起工された。金剛の隣の船台には、奇しくも金剛型のライバルとなったライオン級巡洋戦艦の2番艦であるプリンセス・ロイヤルが建造中であった。このことも相まって金剛の建造技術は逐一日本へ送られ、比叡、榛名、霧島の建造に大いに役立ったのである。
戦艦の防御に不可欠なのが装甲鈑である。当時最先端の甲鈑はドイツ・クルップ社のKC甲鈑(Krupp Cemented Armour Plate)とイギリス・ヴィッカース社のVC甲鈑(Vickers Cemented Armour Plate)の2種類だったが、金剛は当然VC甲鈑で装甲された。甲鈑は徹甲弾を貫通させない堅さと跳ね返すしなやかさの両方兼ね備える必要があった。VC甲鈑はスウェーデン銑鉄かあるいは満州の本渓湖銑鉄を主原料として、これに炭素0.48%、ニッケル4%、クロム2%を加えた高ニクロム鋼である。防御力を左右する甲鈑の生産には広島の呉海軍工廠製鋼部があたり、海軍の最高機密である防御甲鈑の生産は大和、武蔵に至るまで呉で行われた。イギリスからの技術導入により比叡、榛名、霧島の建造に必要だった甲鈑をなんとか自前で作ることができ、後の建艦計画達成に多大な影響を及ぼした。
金剛型戦艦は、基準排水量26,330トン、速力27.5kn、主砲35.56cm(14インチ)8門という当時の最新、最強の巡洋戦艦となり、イギリスが1920年(大正9年)に建造するフッドが出現するまで世界に君臨した。
金剛型の改装
軍艦は竣工時の姿のまま艦齢を全うすることはまずない。技術の進歩はめざましく、一線級の軍艦が明日には二戦級に格下げになることなど日常茶飯事である。しかし、かといって新しい艦を建造できるわけでもない。今ある戦力をあまりお金と時間をかけずにできるだけ上積みできるようにするのが軍政である。そこで、進歩著しい戦艦の性能アップのための改装を考えるのは至極当然である。金剛型は都合2回の大改装を行っている。
第一回大改装
大正11年(1922年)のワシントン軍縮会議で、主力艦については次の範囲で改装することができるとされた。
- 排水量は3,000トン以内の増加は認める
- 垂直防御(舷側防御)の強化はしてはならないが、甲板防御(水平防御)の強化は認める
- 主砲の仰角を増すことは認める
この改装案は、実はアメリカ戦艦の実状に即したもので、甲板防御が弱く、主砲の仰角が小さくて射程の短かったアメリカの戦艦のための条文でしかなかった。逆に日本海軍の戦艦は甲板防御は比較的強かったが舷側防御が弱かったので、完全にアメリカの外交交渉力に負けた形となった。しかしながら、とにかくこの条件でなんとか戦艦をパワーアップしないといけないので、比較的防御力の弱かった金剛型から改装が始められた。
金剛型の改装内容は次の通りである。
- 甲板と弾火薬庫の防御強化
- 主砲の仰角を33度から43度に増し、射程距離の増大を図る
- 石炭・重油混焼罐から重油専焼罐に換装し、航続力の増大を図る(煙突が3本から2本へ)
- 檣楼のマストをやめパゴダ形式の檣楼にする
- 舷側にバルジを装着
改装は大正13年(1924年)4月、榛名から始められ、昭和6年に金剛、比叡、霧島も同様の改装を受けた。この結果、排水量が3,000トン増加し、防御力は増加したが速力が27.5knから26knになってしまったので、高速が主武器の巡洋戦艦から戦艦となってしまった。
第二回大改装
2回目の大改装は1回目の改装で排水量の増加やバルジを装備したことによる速力の低下を重点的に強化することにあった。大改装は榛名から始まり、霧島、金剛、比叡の順にそれぞれ昭和9年(1934年)、昭和11年(1936年)、昭和12年(1937年)、昭和15年(1940年)に完成した。機関部は艦政本部が開発したロ号艦本式専焼罐と艦本式タービンに換装することとなり、速力増加のためさらに全長を約8m延長することも決まった。その結果金剛は30.3kn、比叡は29.7kn、榛名は30.5kn、霧島は29.8knとなった。速力増加と共に舷側に装備していた副砲の仰角を15度から30度に上げ対空射撃ができるようにし、12.7cm連装高角砲4基、25mm連装機銃10基が追加搭載され、対空兵装の強化も図られた。竣工時装備していた魚雷発射管は廃止し、替わりにカタパルト1基が装備され、水上偵察機3機が搭載されることとなった。近代化のための改装は檣楼にも及び、射撃指揮所や防空指揮所、司令部施設など重要な施設がほとんど前楼に集められたため、諸施設が積み重ねられた独特の檣楼となった。
金剛型のスペック
諸元 | 金剛 | 比叡 | 榛名 | 霧島 | |||||
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竣工時 | 最終 大改装 | 竣工時 | 最終 大改装 | 竣工時 | 最終 大改装 | 竣工時 | 最終 大改装 | ||
基準排水量 英トン | 26,330 | 31,720 | 26,330 | 32,350 | 26,330 | 32,156 | 26,330 | 31,980 | |
公試排水量 メートルトン | 27,500 | 36,314 | 27,500 | 36,800 | 27,613 | 36,601 | 27,613 | 36,500 | |
全長m | 214.58 | 222.05 | 214.58 | 222.05 | 214.58 | 222.05 | 214.58 | 222.05 | |
最大幅m | 28.04 | 31.02 | 28.04 | 32.00 | 28.19 | 31.02 | 28.19 | 31.02 | |
馬力 | 64,000 | 136,000 | 64,000 | 136,000 | 64,000 | 136,000 | 64,000 | 136,000 | |
速力kn | 27.5 | 30.3 | 27.5 | 29.7 | 27.5 | 30.5 | 27.5 | 29.8 | |
備砲 | 主砲 | 36×8 | |||||||
副砲 | 15×16 | 15×14 | 15×16 | 15×14 | 15×16 | ||||
高角砲 | 0 | 12.7×8 | 0 | 12.7×8 | 0 | 12.7×8 | 0 | 12.7×8 | |
発射管 | 8 | 0 | 8 | 0 | 8 | 0 | 8 | 0 | |
航空機 カタパルト | 0 | 水偵×3 カタパルト×1 | 0 | 水偵×3 カタパルト×1 | 0 | 水偵×3 カタパルト×1 | 0 | 水偵×3 カタパルト×1 | |
沈没 | S19.11.21 台湾北西 潜水艦 | S17.11.21 ソロモン 海戦 | S20.7.24 呉(着底) 航空機 | S17.11.14 サボ島南西 海戦 |