各部名称
ここでは艦艇の各部名称と運用における特殊な用語を説明する。
基本的な部分の名称
前進進行方向に向かって左側を左舷(さげん、ひだりげん)、右側を右舷(うげん、みぎげん)という。これは外から見たものではなく乗組員の感覚から命名されている。(ひだりげん、みぎげんという呼び方は聞き間違いを防ぐために用いられ、海上自衛隊でも同様に使われている。)
上甲板が艦首にいくに従って上に反っている状態をシアーと呼び、艦首の上甲板が広くなっている部分をフレアーという。これはどちらも凌波性能をたかめるためで、シアーを付けることで乾舷を高く取ることができ波を被りにくくし、また、フレアにすることで波を左右に排除し艦首が波に突っ込むことを防いでいる。日本海軍の戦艦、重巡洋艦(一部軽巡洋艦)はシアー、フレア共に施され、美しいシルエットを構成する大きな要因となっている。
魚雷防御や浮力確保のために船体外側に付けたふくらみをバルジという。当初の計画から装備が増大して乾舷が低くなる、復原力が低下するなどに対処するために装着されるのが本来の目的であるが、それと同時に対魚雷防御にも役立っている。バルジの内側には水を入れた鉄パイプを入れたり、燃料の重油を格納して燃料タンク代わりにした。バルジに魚雷があたっても重油を張ったタンクであれば重油が衝撃をある程度吸収してくれるので3割くらい魚雷の威力を削ぐことができたそうである。重油は粘度が高く容易に揮発しないので、魚雷の衝撃くらいでは引火しないのである。
艦首の形状研究は各国で様々な試みがなされ、波の抵抗をできるだけ少なくする形が何種類か採用された。日本海軍艦艇で使用された形状には、大きく分けると上図の4種類がある。
- カッター・バウ
- 軽巡洋艦(球磨型、長良型、川内型まで)や駆逐艦、潜水艦の艦首に多い。カッターはカッター・ボート(大型艦船に搭載する一般的には手漕ぎの短艇)のことである。
- クリッパー・バウ
- 大和型を除く戦艦に採用されている艦首である。
- ダブルカーブド・バウ
- 乾舷部分と吃水部分の曲率が異なる。重巡洋艦及び軽巡洋艦の夕張、阿賀野型、大淀に採用された艦首である。
- バルバス・バウ
- 戦艦大和型および航空母艦の翔鶴型、大鳳、信濃に採用された艦首である。
航空母艦の特殊名称
- 艦型
- 飛行甲板上に構造物がないのをフラッシュデッキ・タイプといい、飛行甲板の右舷または左舷に艦橋や煙突などの構造物があるものをアイランド・タイプという。飛行甲板を海に見立てると構造物は海に浮かぶ島のように見えることからこう呼ばれる。
- エンクローズド・バウまたはハリケーン・バウ
- 空母の作りは、上甲板上に箱形の格納庫を置きその上に飛行甲板を張る構造なので、通常は基本船体と飛行甲板は離れている。凌波性をよくするため基本船体の外板を飛行甲板まで伸ばして一体化したものをエンクローズド・バウまたはハリケーン・バウと呼ぶ。(アメリカではエンクローズド・バウ、イギリスではハリケーン・バウという)
- クローズド・ハンガーとオープン・ハンガー
- ハンガーとは格納庫のことで、格納庫の周りを防御甲鈑で囲ってあるのがクローズド・ハンガー、周りが簡単な波よけ程度しかなく防御がほとんどないのがオープン・ハンガーである。
運用
操舵の際によく使う言葉は次の3つである。
- 面舵(おもかじ)
- 右に舵を切ること。「面舵いっぱい」は舵を右にいっぱい切ることを指す。
- 取舵(とりかじ)
- 左に舵を切ること。「取舵いっぱい」は舵を左にいっぱい切ることを指す。
- よーそろー
- 「宜しく候(そうろう)」からきた言葉でそのままの状態を維持せよと言う意味。
速度に関しては艦隊によって若干違う場合もあるようだが、基本的にはその艦隊の旗艦が信号旗で指示を出す。
- 両舷微速:4ノット
- 両舷半速:9ノット
- 両舷原速:12ノット
- 両舷強速:15ノット
- 第一戦速:18ノット
- 第二戦速:21ノット
- 第三戦速:24ノット
- 第四戦速:27ノット
- 第五戦速:30ノット
- 最大戦速:その艦隊で出しうる最大速度
両舷(りょうげん)とは左右の推進器(スクリュー)と言う意味。特殊な小艦艇を除いて艦艇は推進器を2軸あるいは4軸持っているのでその全部を指すときには両舷となる。
最大戦速に関しては艦隊を組んだ艦艇のうち一番遅い船の最大速度が最大戦速となる。戦闘時は原則として戦隊で行動するので、同型艦で戦隊を組むことが多く、最大戦速は個艦の最大速度となるのが通常である。