一等乙型、丙型駆逐艦の特徴

乙型駆逐艦は航空母艦を護衛するはじめての防空駆逐艦として秋月以下12隻が第四次補充計画(通称マル四計画)に遡上され、建造された。米英では4,000~6,000トンの防空巡洋艦を多数作り艦隊護衛に用いた。航空戦力を戦艦に取って代わる新しい戦力とアピールしたのは日本海軍であったが、航空機に対する備えは必ずしも積極的ではなかった。それと、米英のように巡洋艦をどしどし作るだけの国力がなかった台所事情もある。
軍令部は機動部隊随伴の条件として、18knで1万海里の航続力を要求した。これは重油を1,200トンも積まなければならない計算だ。巡洋艦として要求するならともかく、駆逐艦に持たせるスペックでないのは明らかで、結局は18knで8,000海浬、速力も33knということで落ち着いた。これにより、陽炎型より700トンも大きい(基準排水量2,700トン)秋月型が誕生した。しかし、ここまで空母護衛にこだわった駆逐艦なのに、軍令部はまたしても変な色気を出して雷装を要求してきた。空母護衛艦が敵機動部隊に肉薄して魚雷攻撃ができるわけがない。軍首脳というのは(とくに日本軍だけかもしれないが)万能兵器をほしがるものなのか。八方美人的な兵器は結局役に立たないことを何度経験しても理解できない軍令部の悪癖はついに終戦まで治らなかった。
秋月型の特徴は高角砲にある。65口径九八式10cm高角砲(通称長10cm高角砲)と呼ばれるもので、長い砲身がひときわ目立っている。長10cm高角砲のは、重量3トン、砲身長6.7m、弾丸重量13kg、発射薬6kg、初速1,010m/s、最大射程19,500m、最大射高13,000mの性能を誇った。この高性能高角砲と新しい九四式高射指揮装置とを組み合わせ、敵機をとらえると4秒で8門全部の砲火をコントロールできるようになっていた。
一部の戦艦や空母しか搭載されていなかった電探(レーダー)を秋月型は装備していた。21号対空見張用レーダーは使用波長1.5m、尖頭出力5kwで、アンテナはダイポールアンテナを4列3段や4列4段に組み合わせ、後方と側方に網を張った長方形をしている。射撃レーダーではないので、敵機を発見しても射撃の照準自体は光学兵器、人力に頼っていた。

島風は第四次補充計画(通称マル四計画)に遡上された高速・重雷装艦である。艦隊決戦の先陣を受け持つ駆逐艦は高速力と機動性で輪型陣を突破して主力艦に肉薄し、雷撃を行うのを専らの任務とされてきたが、戦艦の主砲射程である30~40kmで戦う海戦すらほとんど無く、その10倍に当たる距離で航空機による相手艦隊への攻撃が主流となってしまったので、島風の存在価値はほとんど無くなってしまった。実験艦として建造されたので同型艦はない。
島風の機関は陽炎型の天津風で試験的に搭載された艦本式ボイラーを搭載している。他の陽炎型は蒸気圧30kg/c㎡、蒸気温度350度であるが、島風のボイラーは蒸気圧40kg/c㎡、蒸気温度400度であった。この罐を3個搭載して75,000馬力を発生し、公試運転で最大速力40.90knを出した。これにはちょっとしたウラがあり、公試運転時は燃料や水などの消耗品を3分の2搭載するのだが、この時はその搭載量を2分の1まで減らしての40.90knだったのである。
島風のもうひとつの特徴は重雷装にある。日本海軍で唯一5連装の発射管を装備した艦で、それを3基計15門を搭載した。しかし、予備魚雷は積んでいない。
一等乙型、丙型駆逐艦の同型艦
ネームシップ | 同型艦 |
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秋月 | 秋月、照月、涼月、初月、新月、若月、霜月、冬月、春月、宵月、夏月、花月、(満月=未成艦) |
島風 | 同型艦なし |
一等乙型、丙型駆逐艦のスペック
諸元 | 秋月型(乙型) | 島風(丙型) |
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基準排水量(英トン) | 2,701 | 2,567 |
公試排水量(メートルトン) | 3,470 | 3,048 |
水線長(m) | 132.00 | 126.00 |
最大幅(m) | 11.60 | 11.20 |
出力(馬力) | 52,000 | 75,000 |
速力(kn) | 33.0 | 39.0 |
備砲 | 10cm連装×4 | 12.7cm連装×3 |
発射管 | 61cm4連装×1 | 61cm5連装×3 |